便潜血について (父の治療経験から)

 

 今回は、私がまだ自治医科大学の大学院生だった頃、父の大腸内視鏡治療を行ったエピソードをお話します。

 数年前から、父は検診で便潜血が陽性だったため、大腸内視鏡検査をすすめていたのですが「軽い痔があるからそのせいだろう」

と乗り気ではありませんでした。しかし、内視鏡のテレビモニターに映ったのは、大きく、真っ赤に充血した大腸腫瘍だったのです。

これが便潜血の原因でした。

 さっそく大学病院に入院させて、内視鏡的手術を行うことにしました。ただ、同僚や恩師からは、「自分の身内の手術はしないように

」と言われていました。身内の場合、冷静な判断ができないから、という訳です。 しかし、父は「息子のお前でなくては誰にも切らせん」と言います。

私は、自分の手で手術することに決めました。手術台の上に乗った父を見ると、さすがに自分の気持ちはいつもと

違うことが分かりました。しかし、内視鏡をいれたその瞬間に、いつもの内視鏡医に戻っていました。大腸のひだをかき分けて内視鏡を進め、目的の腫瘍を捉え、その粘膜の下に特殊な液体を注入して盛り上げる。そこに輪の形をした電気メスをかける。ここまでくると。

私は今手術しているのが、自分の父であるこたをほとんど意識せず、まるで自動回路が組み込まれているかのようでした。電気メスに通電して腫瘍を一括で切除し、後で出血しないように徹底的にクリップをかけて縫縮し、手術は無事終了しました。 結果は「腺腫」という、癌になる一歩手前の良悪性境界腫瘍でした。

 しかし、かなり大きかったので、もしあの時発見し切除しなかったら、今頃父は大腸癌で大変なことになっていたのは間違いありません。またこの時、親子の絆というものを強く感じたのでした。先日も当院で父の大腸内視鏡検査を行い、再発がないのを完全に確かめました。

 コラム一覧へ

院長コラムlお知らせl周辺地図l院長紹介l患者様の声l診療案内l院長ブログl
lカルテ携帯システム candylHOME

 戻る